こんにちは。今日は再びお気に入りのポッドキャスト、Post Reportsを聞いていて気になったトビックからです。
もくじ
肥満治療薬オゼンピックを巡る議論
オゼンピック(Ozempic)とは?
アメリカで2型糖尿病治療剤として認可を受けており、日本でも2022年から薬価搭載されている、LGP1 と呼ばれるホルモンに作用する薬です。皮下注射により痩せる効果もあるとし、アメリカでは下のようなCMが大々的に放送されている模様。ポッドキャストでも「有名人を起用」「♪Ozempic♪のメロディが耳に残って歌える」と触れられていました。
大々的な宣伝が功を奏してか、はたまたそれくらい糖尿病患者が多いということか、今や米国では8人に一人が治療を経験している、というデータもあるようです。
基本的には「糖尿病の治療」目的ですが、かたやその食欲減退効果による「ダイエット」を目的として使われることもあるようで(日本国内でも、自由診療で流通しているようですね)、今回取り上げられたのはその文脈でした。音源はこちらから聞いていただけます。
ワシントンポスト紙のポッドキャストの問題提起…ボディ・ポジティブの動きとオゼンピックの普及は相容れるのか
番組内では、どんな体型であれありのままを受け入れてよう、とする「ボディ・ポジティブ(Body positive)」の主張をしてしたインフルエンサー達が、近年になりこのオゼンピックをはじめとした「ダイエット薬」のスポンサーシップを申し出られ、効果を試して紹介してほしい、という営業攻勢を受け始めた、というエピソードを紹介しています。インタビューを受けたインフルエンサーも、当初は本気にしていなかったところが、周囲で実際に試しだす様子を見て本当なのだ、と気づいたとのこと。
オゼンピックのキャンペーンに飲みこまれるボディ・ポジティブのインフルエンサー達
ここでなんだか事態はトリッキーな様相を呈してきます。「ボディ・ポジティブ」を主張していたインフルエンサーのうち、実際にオゼンピックで体重を落としたという例が出てくるに連れ、「体重が重かろうが軽かろうがありのままを受け入れよう」だったはずの主張が、「体重を減らすのに薬に頼ることを恥じるのはおかしい」的な流れも出てくることに…。
あれ?そもそも太っててもいいのではなかった…?
医療の世界でこそ根強い?Fat Shaming ー太っていることを批判する風潮
ここで、番組内では、医者として患者の治療に当たるうち、「体重を減らすこと」を安易に推奨し、それが「わかっていてもできない」患者を辱めている医療の世界に疑問を呈し、「減量を(安易に)勧めない」としている女性医師が登場します。
彼女が診てきた患者達が、医者から一方的に減量を指示され、それができないことで治療に後ろ向きになり、本当に必要な問題が一向に解決できずにいる状態を変えたいと、減量ありきではない治療法を患者と話し合っていくことにしたそうです。
そもそもの前提ー人は”どのように太って”いるのか
OECDの統計による世界の肥満率
ここで少し前提条件の確認です。日米の肥満率(体重過多の人口比率)の差はどの程度か、見てみましょう。以下はOECDのグラフの引用ですが、日本はなんと左端、右から2番が米国です。差は一目瞭然。肥満までいかずともオーバーウェイトとされる人の割合が、日米では7対3の内訳が逆転するのです。
つまりアメリカでは、日本と違い「大半の人がオーバーウェイト」に該当する、ということです。健康状態や本人が自分の体重を捉えているかどうか、はこの数字だけではわかりませんが、当然肥満治療薬への関心は高くなり、また、製薬会社にとっては巨大市場であると言えるでしょう。
「肥満率の高さ」は治療薬で解決できるのか?肥満率の増加を招いているのは誰か…WHOのレポート
じゃあ、薬ができてよかったよね、食生活や運動習慣だけで痩せられるもんならみなやるよね、ということで良い…
のでしょうか?
ここで、WHO(世界保健機構)が今年発表したレポートについての記事をご紹介したいと思います。
“These drugs are definitely an important tool, but they should not be seen as a solution to the problem,” said Francesco Branca, director of the department of nutrition and food safety at WHO, who was a co-author of the study. “The solution is still the transformation of food systems and the environment.”
「WHOの栄養・食品安全局長で、この研究の共著者であるフランチェスコ・ブランカ氏は、「これらの薬剤は間違いなく重要な手段ですが、問題の解決策と見なすべきではないでしょう。解決策はやはり、食品システムと環境の変革です」と述べる。
https://fortune.com/well/2024/03/01/ozempic-weight-loss-drugs-not-solution-obesity-who-world-health
記事の中には「肥満は、かつて栄養失調や低栄養がはびこっていた低所得国で、それらを入れ替える形で広まっている」との記載も。どういうことか?
それは、肥満を引き起こすような安価で高カロリーな食品が、そうした国々の市場を席巻しつつあるということではないでしょうか。栄養失調よりはいいだろう、という意見もあるかもしれませんが、それはやはり経済格差の形が姿を変えただけだとも言えるでしょう。そして、肥満の治療薬の流通すら、豊かな国々に供給するために近年1部で供給停止があったように、経済格差による不平等を如実に反映するものなのです。
さらに穿った見方をすれば、片方で高カロリーの過度に精製された食品を低所得国(層)に売りまくり、肥満率をあげ、もう片方では肥満治療薬を解決策とばかりに売りさばく…
これぞマッチポンプ
という図式が出来上がっている気がします。もちろん食品会社と製薬会社は別ですし、国も様々ですので、どっかのコンスピラシー・セオリー風に「悪の黒幕がすべてを裏で…」なんて単純な話ではないですが、私達は大資本がそういう構造を作り上げてしまった世界経済の中に住んでいると言える、のではないかという考察でした。
体型や体重云々で個人を攻撃/差別するのが間違っているのは、私達の思う理由からではないかもしれない
ちょっと話が広がってしまいましたが、そんな話を俯瞰してからこの「ボディ・ポジティブ」の動きや、「肥満治療のあり方」を改めてみてみると、また少し初めとは違う見え方になるんじゃないかと思います。
「意思が弱い」「自己管理が」…そう言ってFat shamingをする風潮は、小さな檻の中に放り込まれて自分とは違う群れを攻撃して安心してるお猿さんみたいな図式かもしれません。ひょっとしたら群れを超えて結託して「もっと全頭にちゃんとした栄養のある餌を配分する仕組みを作れ」「もっと遊び場を広げろ」って動物園の飼育員(園長かな)にデモ運動するほうがいいのかもしれないのに。
そんなわけで、個人攻撃の前に、「じゃあどういう国/社会/地域なら健康な食生活や運動ができる人が増えるのか」みたいな議論をする練習を、私達は特にもっとしといてもいいんじゃないかな、と思います。
英検の筆記や面接対策は、そうした練習にもなると思います。「肥満治療薬」そのものが直接トピックに出ることはないかもしれませんが、「Should the government take more actions for tackling the increase of obesity rate?(政府は肥満率の増加に対しもっと対策を取るべきか?)」みたいなお題であれ充分練習になるのでは、と思います。
普段から自分の関心事やそれに関する海外のニュースにアンテナを立てて、どんどん情報を探していくクセをつけて、「いろんな仮説やお題に対する自分なりの論点」を見つけられるようにしていきましょう!