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「英語力がなくてもAIの翻訳は直せるのか」を検証してみる
こんにちは!「英語力がなくてもAIの翻訳は直せるのか」について、「ありえない」理由が述べられているサイトは結構出てきているようなのですが、具体的な例がある方が面白いかな、ということで、今回やってみました。
ちなみにこういう「AI翻訳の訳がイマイチ」な例はまだいくらでも例があるので、今回の例も氷山の一角です。
英語原文(本日付けのThe Guardian紙より)
では早速、今日は英国のThe Guardian紙に紹介されていた、2023年11月30日から開催されているCOP28(国連気候変動枠組条約第28回締約国会議)に関する記事からです。参加国による取り組みが遅々として進んでいないこと対して、国連事務総長のアントニオ・ゲテーレス氏の発言が引用されています。
訳を比較検討してみたいのが太字の部分。
More than half of the 200 countries that are represented at Cop28 have signalled they would support agreement language that mentions a phase-out of fossil fuels. John Kerry, the US climate envoy, has said it is “hard for anybody to understand” why the primary cause of the climate crisis would be allowed to continue, while António Guterres, secretary-general of the UN, urged leaders on Friday to unambiguously back the end of oil, coal and gas. “Not reduce. Not abate. Phase out,” Guterres said.
The Guardian紙2023年12月4日付”Agreement to phase out fossil fuels would be huge for humanity, says Gore”
さて、意味は取れましたでしょうか。
ちなみにreduceはさすがにもうおなじみでしょうし、abateの意味はこちら。
さて、これがAI翻訳でどうなるか。DeepL先輩とGoogle先生の訳例を比べてみましょう。
DeepL先輩による訳
サイト翻訳の場合
「減らすのではない。減らすのではない。段階的廃止だ」とグテーレスは述べた。 DeepL
さすがに気づきましたね?reduceとabateの訳が一緒になっちゃってます。まあこんなのはわかりやすく違和感醸してくれてるので、一見ナチュラルだけどおかしい、みたいな誤訳に比べたら、むしろ優しいほうかも。
次はDeepLの「サイト丸ごと翻訳」ではなく、コピペで該当フレーズだけ訳してみました(翻訳する範囲によっても返してくる訳が変わることがあります)。
削減しない。軽減でもない。段階的に廃止する。
おっ、reduceとabateをちゃんと訳し分けてきたところはいい感じです。でもこれのおかしいとこ、わかりますか?
文脈を読めてたら簡単だと思うのですが、Not reduceが「削減しない」って訳は、二酸化炭素排出量の削減を「しない」わけはないはずなので、おかしいですよね。惜しい、DeepL兄貴(誰)。
さて次は、Google先生のGoogle Translateの訳を見てみましょう。
Google先生による訳
「減らさない。衰えていない。段階的に廃止する」とグテーレス氏は語った。
Google Translate
ん?減らさない?これも前述と同じパターンですね。次の「abate=衰える」?体脂肪なんだか中年の体力なんだかよくわからない話になっちゃいました。
いかがでしょう。AI翻訳の精度はどんどん変わっていくと思うので、あくまで現時点でですが、「AI翻訳の限界」を垣間見ることができる一例でした。
実際言わんとしていることは?
このゲテーレス氏の表現、フルセンテンスではなくてフレーズのみの省略表現なので、AIは苦手分野。DeepL兄貴(だから誰)からすれば「主語述語ちゃんと書いてあったら華麗に訳してやるのに、フェアじゃないぜ!」てなもんかな、とは思いますが、それでも英語がわかる人間は普通に意味を理解しますよね。特殊事例ってほどでもないと思います。
ということで、発言のニュアンスとしては
「削減ではない。逓減でもない。段階的廃止だ。」
くらいの感じでしょうか。たぶんこの発言はいろんなニュースサイトでも翻訳されてくるでしょうから、いろいろ比べてみると面白いかもしれません。
化石燃料の使用について、度合いを云々するための話し合いをしている段階ではなく、段階的に減らして行ってゆくゆくは「完全廃止」するのだ、という強いコミットを参加国にも求めているわけです。日本の政治家でここまで言い切っている人は残念ながら見たことないですが、国際会議の場で国連の事務総長はここまで言っているわけです。日本は「化石賞」とかもらっちゃってるくらいで、このままでいいのかな?とは思いますよね。
でもって、こうした背景が見えてくるということ自体が、私が個人的に英語勉強しててよかった、と思えるポイントです。物事への国内外での温度差がかなりあることに、日本のメディアだけ見ていては伝わらないことに、気づくことができるからです。
「英語力不要?AI翻訳を手直しするだけの簡単なお仕事」について
さすがにナンセンスってことで
ここで「英語力なしでもAI翻訳を手直し」できちゃいます的な講座について思うことは、訳そうとしている単語(ここなら”abate”)が他にどんな文脈で使われ方をするかといった知識やリサーチなしにどうやって訳すのかな、と不思議なわけです。
でもって今回のような例は「AI翻訳がうまく訳せないパターン」のうちごくごく一部。いろんなパターンがあって、人間にはその都度文脈を理解し、誤りを見抜き、訳をブラッシュアップしていく作業が求められるわけです。
ちなみに、今回はごく一部のAI翻訳の弱点を鬼の首を取ったように(笑)取り上げてますが、AI翻訳の精度が上がってきてるのは本当だと思います。たとえば数年前のGoogle翻訳なんて、英日翻訳だと確かに相当ぎこちない日本語だったわけですが、DeepL先輩なんか一見直しようのない日本語を吐き出してきます。
だけどAI翻訳自体の進化は続く
こうなったときに、「AI翻訳のチェックのお仕事」って、AIが間違えてる部分を見抜くむしろ「高度な英語力」が必要なのはおわなりいただけると思うのですが、AIが間違う確率が減ってきたら確実に「直す手間」は減ってくると思います。現時点では「AI翻訳そのままの訳?ハハっ、ちゃんとした仕事では使えないよ~」なんて言ってますが、「AI翻訳で割とイケる」ってなる日も必ずくると思います(今も正確性がそこまで求められないサイトなんかは自動翻訳の導入で「多言語化」って言ってますし、一部変化がやって来ていますよね)。
「もう人間は不要?! AI翻訳の普及で翻訳者は不要になる?」の記事でも書きましたが、翻訳の仕事の進め方は大変革の波が迫ってきているように思います。技術の変化で職業構造が変わっていくのも世の常だし、言葉の壁自体が一般の人にとって低くなるのはいいことのはず。これから10年、20年とどう変化していくのか、しっかり見ていきたいな、と思います。
とはいえ英語力磨いておいて損はありません
ということで、今回もAI翻訳ネタでしたが、このサイト自体は大人の英語学習を応援するサイトであって、翻訳で稼ぐ人の応援に特化したサイトではありません(もちろん真面目&楽しく英語を勉強した結果として身に着けた英語力を武器に正当な対価を得て稼ぐことには大賛成です)。
ただ、個人的には、英語を学ぶ楽しさ、メリットの本質的なところは、「稼げるかどうか」に左右されないと思っていますので、(英語学習はメリットだらけ?ChatGPTの見解に英検1級ホルダーが突っ込んでみた)そんな時代の変化も眺めながら、英語学習は続けていこうと思っています。
ちなみに、上記でご紹介したゲテーレス氏については国連英検ネタでも書いてますので、こうした国際ニュースに関心がある方はそちらの記事を見ていただけると嬉しいです(国連英検受けるかどうかは別にして)。国連英検A級、特A級(SA級)対策は何をした? (情報収集編)
それでは皆様、本日も、Happy Learning!